■墨絵師日記抄





雨戸 夜っぴて 蹴とばしやがる
はだか馬やら 春の風
けさはウグイス となりの梅か
男 火打ちを カチカチ鳴らし
朝餉かまどの 煙に泣いて
絵にもならない
絵にもならない 絵師ぐらし


紅のツバキも うろこの銀も
墨で描いて色匂う
扇子いっぽん ひらけば無限
恃みの絵筆に 墨ふくませて
きょうの命が したたる にじむ
夢が燃え立つ
夢が燃え立つ 花が舞う


破れ障子を のぞいた月は
雲をなびかせ 山にあり
よれた着物に ひしゃげた草履
無骨男の 気合は虎か
あすの屏風は 今宵の月を
添えて竜虎の
添えて竜虎の 眼に灯す