甲田四郎詩集『くらやみ坂』抄
『くらやみ坂』目次


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出 る



 シラサワの夢を見た。私が人を家に招いたのだろう、なんだかたくさん
人が来て、誰かの後にシラサワが来たのだ、誰かを連れていた。顔を合わ
せてすぐあれ? おまえ死んでんじゃねえかと私は言った。シラサワは私
の中学からの友人で喘息で二五年前四五歳で結婚しないまま死んでいる。
中学の友人ではヌカザワというのもいて一五年前五五歳でガンで死んでい
る。死んでから二人と何回か夢で会った。気がつくと顔を突き合わせて何
かよからぬ相談をしているか互いにそっくり反って笑っている。シラサワ
とヌカザワ別々の時もあれば三人一緒の時もある、だけど私があれ? と
気がついて、おまえ死んでんじゃねえか。するととたんに表情を消して次
の瞬間消えてしまう。私は夢から覚める。取り残された感覚を持つ。だけ
どその夜はシラサワは消えない、いいじゃねえかと口をとんがらがした、
さっきヌカザワも入ったぞ。私は驚いてそうだったか? そんじゃあと言
いかけるとシラサワも連れの男もすっと入って誰だと聞くひまもない。ま
あいいや、友達の友達は友達だあ。その後から痩せた若い男が(どこかで
見た顔なんだが)これも誰か一人連れて入ろうとする。えーと、おまえ誰
だい? おれおまえを知らないよ。すると男はシラサワの方を指さしてこ
の人の友達だよ。友達ならいいって言ったじゃないか。そうだったか?あ
れ? でもおまえも死んでんじゃねえのか? すると男はべそをかいて死
んでるとダメなのかとシラサワに聞く。シラサワの声がおれがいいんだか
らこいつもいいだろ。そうかあ、じゃあ入んな。とたんにすっと男とその
連れが入り後から後から(不思議なことに男ばかり)入ってマエヤマがす
っと私の帽子を取っていった、私の股を潜っていったのはコイカワらしい、
家がふくれると思うと目が覚めた。夜明け前。ガラス窓に街灯の明かり。
家中何の気配もない。死人は圧搾空気のようにいくらでも詰まると思った
が、詰まっていた友達の一人一人に取り残された感覚があった。一人で二
階にいる幼い私に遊んでくれた隣のオネエチャンが、 じゃあね 、泣くん
じゃないよと表通りに面したガラス戸を開け、はだしで屋根伝いに壁一枚
の隣へ帰っていった、たぶん私は泣き出したんだと思う、そんな感覚。