甲田四郎詩集『送信』抄
『送信』目次


 次ページ

私は具体で生きている



コンビニのカップラーメンは一七六円だが
血圧に悪いからダメ
チェーン店の弁当屋は大音響で女の早口の歌を流していて
目の奥に響くが店に入るまでは忘れていた
サケ弁一つ三九〇円、飯が小盛だと三四〇円
参入したいができない値段だ
チクワのてんぷらと何かのフライと何かの漬物は
血圧が上がるから捨ててサケと飯だけ食べる
女房がタマネギの味噌汁を作ることになっている
ビニール袋をぶら下げて店を出れば晴天
一〇階建マンションに両脇と後ろの三方を囲まれた谷間の
三階建巾一間半の新築床屋のサインポールがくるくる回っている
あらゆる誘い働きかけその他いろいろに乗らず応じず
土埃大音響振動いろいろの下で回っていたサインポール
亭主の胃に穴が開いた時も板囲いの下で回っていた
マンションの完成前に木造二階を軽量鉄骨三階に建て替えた
その間三カ月五〇〇米離れた借り店で回っていた
気がついたら開店して回っていた
回っているサインポールは
鏡の前で寝ている客の後や横を
すっかり老けた女房がサンダルを引きずって回る音がする
もっと老けた亭主がもっとべったり引きずって回る音がする
「頑張った人にはそれなりの幸せがいつかきっと扉を開く」*
音である
今夜は十五夜 ほんのり甘い月見だんご
店先にススキとだんご出して売る
女房も私もサンダルを引きずって
売れないが売る