甲田四郎詩集『くらやみ坂』抄
『くらやみ坂』目次


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遅れた花見



桜の丘の公園は冷たい風が吹いていて
遅れた花が揺れていて
空は入れ歯が取れた口のよう
一軒残った茶店に爺さんが一人いて
寒いから花が長持ちすると言う
甘酒だの煮込みだの
遅れたものには長持ちするものが合う
だがぬるい
黒土に花がめり込んでいる斜面の
段々を踏んで下ればかすかにめまい
白い仮設トイレが重たげに片付けを待っている
池の際バタじゃが五百円の屋台には
セイロに湯気が立っていて売り子がいない
母親と子供が立って食べていて
あっちの方にいるんですよと言う
おーいお客さんだよと声を上げると
おーいと声がして片付けを待つ屋台の列から
タオルを頭に巻いた若いのが現れる
バタじゃが一つ
箸も一つでいいやかわりばんこに食べるから
すると子供が母親を見上げて
ぼくもかわりばんこだよと言う
プラスチックの皿にでかいじゃがいも二つ
いっぱいつけていいんだよと子供が言う
そうかい、この位かい?
もっと
この位?
もっと
バタつきじゃがでなくてじゃがつきバタである