甲田四郎詩集『送信』抄
『送信』目次


 次ページ

箸を使う



めしどきにめしを探して歩いて気がついた
箸を使う
どこかの国で作られた割箸六〇膳百五円
箸を使う手はその国の木と人のかせぎの安さを食っている
それなのにこの手ちっともラクにならない手
こっちも食われている

公園の道路側に入口のある共同便所の
裏手の若葉茂るベンチで
カーキ色の作業服の若くない女がうつむいて
箸を使っていた
生きることは食うことだとか
食うだけが楽しみだとかいうが
楽しんでいるようには見えない
昆虫のように咀嚼している
空で巨大な昆虫が咀嚼している
と思っているとしても
話す相手が誰もいないのだ
ギョツとする
もしかして私がいない所で女房が
あんなふうに箸を使うのだろうか

生き残っている店はたいてい企業の支店かチェーン店で
ラーメン屋A 四人並んでいる
敗戦直後父の煙草を買いに朝早く行列して以来
私は行列はキライ