甲田四郎詩集『送信』抄
『送信』目次


カエデとリンゴ



弟は単身赴任二十五年の後
(女房が一人で三人子育てした後)
家族の許に戻されて一年でうつ病と診断され
脳梗塞を発症し
定年二年前退職し
三年闘病して秋の終わりに死んだ
その三回忌
野山を走る車の窓から
カエデとリンゴの鮮やかな色を見た
弟が見ていた

あと一週間すれば雪になる
時の急流を止める杭のように
呼吸する自分の生の色
三人の息子という収穫の色

二つの色を風呂敷に包んで持ち帰り
店に飾った
コンビニで五百円玉入れてコピーを取って
出ようとしたらあーおじいさんと呼ばれた
おじいさんとはおれのことか
振り向くと若い男がこコニコと
お釣り忘れていますよおじいさん
そうだ私は手も早くは動かない
店でお客さんを待たせてしまう
すると老い先短い年寄りが
いいよゆっくりやってくれ
おらあ時間だけはいっばいあるんだ
先行き長い若い客は
早くしろと手振りでせかす
時間がないんだおれは