甲田四郎詩集『送信』抄
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かいもん
開聞八月十四日



開聞行きバスは乗客が私と女房だけ
終点近くなって運転手が
「開聞駅でいいんですか、何もないところですよ」
「いいんです、指宿枕崎線に乗るんです」
しかし止まったのは油照りの街道で
「駅はどこですか」
「そこを左へ入るとあります」
人家はなくて草いきれの空き地があった
隅に不似合いに立派なトイレがあった
突き当たりの低い土手がホームで
屋根つきの待合室があってベンチがあった
草の中左右一直線に錆びた線路の上を
カラスアゲハが舞い赤トンボが泳ぐ
線路の前は竹藪
スカートに鼻をくっつければ
その主の顔は見えない
そのように開聞岳の
六十五年前南下する特攻機が最後に見た本土の山の
姿は見えない
広場の隅に特攻花が植わっていた
指宿の旅館の庭に赤黄色の小菊が植わっていて
掃除係にあれは何ですかと聞いたら
言下に特攻花ですと言ったのだ
「本来の名は何ですか」
「さあ」
しかしよく聞いてくれましたというように
支配人から部屋に電話がきて
「あれはオオキンケイギクといいます
原産はナントカ国で、特定外来生物で」
掃除係がドアを叩いて
「あれはオオキンケイギクというんですって」