甲田四郎詩集『くらやみ坂』抄
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くらやみ坂



この夏坂の上は戦争である、さあ殺せ
とヤケの薄笑いでゆっくり歩いていく人と
殺されるもう殺される
と殺気立って歩いていく人が
目立つようだと友人が手紙に書いてきた
そういう彼は私と同じ
とつぜん歩けなくなることがあるので友人なので
しかしヤケにならない殺気立たない目立たない人は
忍者のように歩いているのか知らん
そうっと一歩踏み出して
熱い電信柱に掴まって
開いた股をそうっと閉じて
脳天をジリジリ焼かれて
あたりを見回して
くらやみ坂で立ち往生
私のその状況は判った
しかしそれでどうする
首筋暗く汗をかいて焦げくさい
モーターが過熱した扇風機のように
首を振った
しかし風は起こらず
南部鉄の風鈴は振れず
 こずかた
「不束方のお城の草に寝ころびて
空に吸われし十五の心」
青い短冊も動かない
それでも
扇風機は決して首を縦には振らないのだ
ずるずる電信柱の根元にしゃがんだ