甲田四郎詩集『送信』抄
『送信』目次


味 覚


四十年間もらっていた注文が突然切れた
四十年とは高校生が高校生の孫を持つにいたる歳月だ
その歳月を見に行った
カラスが多い町である
町工場の建物はあったが
内部が空洞だった
中身をそっくり食われたハトの皮のよう

孤立していたんだと思う
しばらく私は立っていた
隣の仲間が撃たれてもただ立っていた
どうしていいか判らなかったから立っていた
そして絶滅したアメリカ野牛のように

カラスが音を立てて飛び立った
孤立した生き物の脳髄から脚の先まで食ったのは
投資ファンドとか銀行とか
資本主義の機構そのものだとかいうけれど
過食症に犯されたカラスの眼
トイレに立って食ったものを吐いてまた食い
残らず吐いて残らず食う眼だ
味覚があるのかと思う
なぜ皮を残したと思う

ある日テレビで見た
カップラーメンにコロッケ一つのせたのを
不自由な左手で食べる女性高齢者がいる
息子が作って、立ったまま一緒に食べている
いつもはコロッケはないのだろう
今日はコロッケをおごったのだろう
コロッケに近々と顔を寄せて食べている母と
その動かない表情の底にあるものを
見ながら食べている息子とを
つなげている熱いものの味覚