甲田四郎詩集『くらやみ坂』抄
『くらやみ坂』目次


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新宿まで



気がついたら悪い長い夏が始まっていた
終わりは確実に来るそれだけが楽しみだ
いつどんな形でか知らないが
私はそのとき生き返る
変圧器のような私の意識の音
ときどき途切れたりするその音が
そのときわっと笑い声になる そう思う

夕がたの電車でやれやれ座れて
じりじりじりじり首が西陽に焼かれて
目の前に脂ぎった男の股間
皺寄ったのと膨らみが引いて突き出て
目を投げる遠い空に彩雲運河にあぶく
漏れをよく吸収する防水パンツ がさがさと
かれが広げる新聞に通信販売の広告がある
活字のない白い無意識の領域がある

気がつくと私は乗り換え駅の品川を過ぎて
車輌基地の電車の群を眺めていた
田町で乗り換えられると思ったが
気がつけば電車は田町を出ていた
無意識の領域が広がっている
東京駅で中央線に乗り換えようと思い
気がつくと車掌がフシをつけて言っていた
次はアキハラバアキハラバ
総武線はお乗り換えです
電車を降りるとどっと暑くて
階段を昇るのがおっくうだ
山手線の内回りで遠回りして行こうと