甲田四郎詩集『くらやみ坂』抄
『くらやみ坂』目次

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テーブルの下の青い屑かごの中の
青いゴミ袋の下の青い貴重品袋
帰宅してそこに入れたと思っていたがない
ほかに記憶がない
記憶がないのは無意識だったということで
無意識の領域でこの手がどう動いたか探るのは難しい
そこらを全部ひっくりかえして
二階に行って大掃除して
駅で昨日遺失物の中にハンコがなかったか聞いて
交番で駅から家までの道順と時間を書いて
家に帰ってあちこち叩いて回った
叩いても出ないどん、どん、どん、どん
無意識の領域はただ暑く
私が危険に染まっていくのが判る

ひょいと気がして
青い貴重品袋の上に乗っている
青いゴミ袋をつまみ上げて
逆さに振ったらゴミと一緒にコロリ出てきた
ゴミ袋に実印を放りこんでケロリとしている
無意識の領域は怖いものはない
呆けの領域と同じ気がする
私に意識が戻ったら
恐いものもいっばい戻ってきた